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しろいみち

白い道

徳永 直

「新潮」1948(昭和23)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,169 字 · 36 页

青空文庫

気分的なもの、感傷的なものなど、まるでないのが、三吉にはショックだった。

「きみ――」

やがて、三吉だけがさきに帰ろうとして、梯子段をおりかけると、おどり段まで、ふちなし眼鏡がでてきた。

「――きみ、一度東京へ出てみたらいいな」

三吉はびっくりした。眠っているうち、彼は三吉のことを考えていたのだろうか?

「行くんなら、ぼくが紹介状をかきます」

「はぁ――」

おのずと年長者へ対するようだった。とつぜんだが、三吉にはわかった。三吉にちゃんとしたボル理論を体得させようというのだろう。小野が東京へでてハッキリとアナーキストとして活動しはじめ、故郷へその影響を及ぼしはじめたのと、その正反対の道なのだ。三吉は梯子段にうつむいたまま、ふちなし眼鏡も、室からさしている電灯の灯に横顔をうかせたまま、そっぽむきにたっていた。――

東京! 小野にさえぎられた東京に、もひとつの東京が、ポカリとあいたような気がする。ハンチングをかぶったボルは、三吉に新しい魅力であった。東京大森の前衛社! 赤い旗の前衛社! それはどういうところだろう? くらい道を家へ歩きながら想像している。しかし三吉は、高島にむかって、とうとう返辞をしなかった。