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はくとうのうた

白塔の歌

豊島 与志雄

――近代伝説――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,450 字 · 43 页

青空文庫

其の後彼女は陳慧君の養女みたようになりまして、陳秋雲と呼ばれることの方が多くなりました。陳慧君は秋雲の前身については、誰に対しても語るのを避けていました。

陳慧君自身の生活がまた、多くの影に包まれていました。彼女は南京の生れだといわれていましたが、上海のことに大層通じておりました。亡夫は演劇方面に関係のある仕事をしていたという説もあり、または古着を取扱う商売をしていたという説もあります。其の後、彼女は相当の資産を所有して、骨董品類の店を経営していましたが、その店が実は方福山から委託されたものだとか、或は貰い受けたものだとか、いろいろの陰口が囁かれたこともありました。そして方福山との多年の関係は、殆んど公然の事実みたいになっていました。

彼女は背が高く、体躯が細そりとして、眼の動きが敏活であり、もう四十歳ほどなのに、若々しい肌色をしていました。そしてこの市井の一未亡人は、各方面につまらない用件を発見することにかけては、稀有の才能を具えていましたし、実につまらないその用件も、彼女の口に上せられると、なにか心にかかる趣きを呈するのでした。そのようにして彼女は、各方面に知人を作っていましたし、凡そ権力のあるところ、富力のあるところ、野心のあるところには、彼女の姿がしばしば見受けられました。