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しらねのふもと

白峰の麓

大下 藤次郎

「みずゑ」1910(明治43)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,238 字 · 45 页

青空文庫

宗平は真鍮の煙管に莨をつめつつ語る、さして興味ある物語でもないが、こうした時こうした場所では、それも趣きふかくきかれたのであった。

猟の話から始まる。

昔は、羚羊も、鹿も、猪も、熊も、猿も、狼も、里近くまで来た、その数も多かったが、近頃は殆ど姿も見せぬという。猿は山畠に豆をとりに来るが、その数も少くなったという。数年前、信濃の猟師が、この山で大熊を捕えたが、格闘のとき頬の肉を喰い取られた。熊は百金に代えられたものの、頬の治療に八十五円を費やし、結局三、四ヶ月遊んだだけの損であったという。

湯島村の経済に話は移る。

貧しい村で、農産物は少しばかりの麦、粟、稗、豆のたぐいと、僅かの野菜にすぎぬが、それでも村で食うだけはある。いずれも山畠で、男の児は十二、三になれば、夏は一日一度は山畠に出る。砂糖もなく、菓子もなく、果物もない、この土地の子供は気の毒なものだ。夏の野に木苺をもとめ、秋の山に木通や葡萄の蔓をたずねて、淡い淡い甘味に満足しているのである。

家々の生活は簡単なもので、醤油なければ、麦の味噌はすべてのものの調味を掌っている。鰹節などは、世にあることも知るまい、梅干すらない。