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しろばなのあさがお

白花の朝顔

泉 鏡花

「週刊朝日 第二十一ノ十六号(春季特別號)」1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,880 字 · 62 页

青空文庫

三千歳を素人とか、何とかいったね、それだ、そっくりだ。そりゃ路之助に憑絡ってる幽霊だ。いいえ、憑ものは、当人の背中に負さっているとは限らない――

実は祇園の芸妓だがね、私がこの間、彼地へ行っていたもんだから、路之助が帰るのに先廻りをして、私を便って来たらしい。またかと思う。……今いわれた時も慄然としてこの通り毛穴が立ってら。私には何にも見えないんだよ。見えないが、一人で茶屋へ休むと、茶二つ、旅籠屋では膳が二つ、というのが、むかしからの津々浦々の仕来りでね、――席には洋服と、男ばかり三人きりさ。それが、お前さんに見えたのは、幽霊に違いない。」

「ひええ。」

しめた。不断の大臆病。

「行って見たまえ、覗いてごらん、さあ。それが嘘なら、きっとあそこにいやしない。いても、目には見えないから。」

「気味の悪い……いやだねえ。」

「板一枚のなかは、蒸し上るばかりのこの人数だ。幽霊だってどうするものか。行って覗いて見たまえ、というのに。」

あたかもそこへ、魔の手が立樹を動かすように、のさのさと相撲の群が帰って来た。

「それ、力士連が来た、なお気丈夫じゃあないか。」

と、図に乗っていった。