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はっけっきゅう

白血球

豊島 与志雄

「良婦の友」1921(大正10)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,538 字 · 24 页

青空文庫

「そうれごらんなさい。おかしいわ!」と口には云わないが目付に見せて、綾子は皆の顔を見廻した。

「それも大入道のせいかな。」

「やあ、此処にも大入道が居るよ。」

と晋吉は立ち上って、背延びをしながら向うの壁に、自分の影を写していた。

笑っていいか恐がっていいか分らない、変な其場の気分だった。

そしてそれが、後まで続いた。

晋吉は夜になると、電燈の位置を変えたりいろんな姿勢をしたりして、壁に写る影法師をしきりに研究しだした。両手を拡げて飛び上ったのが、飛行機の姿だったし、首を振りながら片足で立ったのが、お化の姿だった。其他いろんな物が出て来た。

「お止しなさいよ。そんなことしてると、今に影に呑まれてしまうわ。」と綾子は云った。

影に呑まれるというのは、彼女の作り出した言葉だったが、それが実際、変な響きを皆の心に伝えた。

「なあに呑み込まれるものか、姉さんを呑み込んでやらあ。」

そして晋吉は、獅子舞いの面の恰好をして壁に写した。

その様子には清まで笑い出したが然し彼女は内心ひどく慴えきっていた。女中部屋の中には晩になると決して足を踏み入れなかった。

秋子は表面だけで皆に笑ってみせながら、内密で良人に断言した。