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しらがこぞう
白髪小僧
杉山 萠円
「白髪小僧」誠文堂、1922(大正11)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,770 字 · 194 页
そうしなければあの夢のために自分に向いて来た幸福を、自分一人占めにする事は出来ないのだと、恐ろしい覚悟を定めてしまいました。けれども紅木公爵も公爵夫人も、こんな悪い女が似せ紅矢となって、今眼の前に寝ていようとは夢にも知りませぬ。只思いもかけぬ吾が児の大怪我に気も狂う程驚き慌てまして、一体どうしてこんな事になったのかと言葉を揃えて尋ねました。
似せ紅矢の美留藻はこの言葉を待ちかねて、紅矢の声色を使いまして、さも苦しそうな呼吸の下から、「何卒皆の者を遠ざけて下さい。只御両親だけ御残り下さい。他人に聞かれてはよくない事で御座いますから」と申しました。そうして両親と差し向いになりますと、美留藻はさも痛々し気に床の上に起き直りまして、両手を支えて、繃帯の間から涙をポロポロと落して見せました。
両親は益々驚き周章てまして左右から、
「お前はどうしたのだ。訳を云わずに泣いたとて訳が解からんではないか。どういう訳で涙を流すのだ。これ。紅矢。早く聞かせてくれ。心配で堪らない。ええ、紅矢」
と問い詰めました。この様子を見て美留藻は、先ず占めた、両親は飽くまで自分を紅矢と思っていると安心しました。