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ひゃくしんのふ

百唇の譜

野村 胡堂

「文芸倶楽部」1931(昭和6)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,209 字 · 25 页

青空文庫

堕落の底の底

気が付いて見ると、真弓の父の小田切三也、早くも此様子を見て、一文字に廊下を駆け付けて来るのでした。

ものの機みで良平には深手を負わせましたが、伯父三也は藩中第一の遣い手、こんなのに出逢わしては、千代之助如きが、半ダースかかっても追っ付きません。

おろおろする真弓を後に、千代之助の身体は、縁側へ、庭へ、植込へ、脅えた兎のように逃げ込んでしまいました。

堕落の底の底

半沢良平は大怪我をしましたが、幸い生命には別条なく「不慮の災難」で公向きは済みましたが、昔気質の小田切三也の気持は何うも其儘では済みません。

せめてもの詫心、良平が命に賭けて恋い慕う娘を納得させて、一日も早く祝言の盃を交させようと思いましたが、真弓は、おどかしても、叱っても、宥めても、頼んでも、こればかりは聴き入れることではありません。

「武士の娘にあるまじき不行跡、此上は手討にして良平殿に詫をする」

父三也は刀を捻くり廻してそんな事まで言いますが、素より命を投げ出した真弓は、そんなことで鷺くわけもなく、第一真弓の美しさに打ち込んだ良平は、何に代えても、真弓の命だけはと手を合せないばかりです。