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ひゃくゆきょう

百喩経

岡本 かの子

「三田文学」1934(昭和9)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,474 字 · 21 页

青空文庫

どこかでフォルクダンスのレコードがこどもの靴先に挑みかける間拍子の弾み切ったのが聞える。男は両鬢の肉と耳を少し動かして聞く。

もう一枚、同じくマルマレードをつけて、もう一枚、もう一枚、もう一枚――マーガレットは男に取って貰って六枚まで喰べた。だが七枚目は

「半分」

と云った。

このとき思わず令嬢の顔を見た三木本の眉の根に面倒と怒りとで挟み上げられた肉の隆起を認めた。だがそれは極めてかすかなものですぐ消えた。

三木本の帰ったあと遅く出た風の送る水仙草の匂いを嗅ぎながら広いサンルームでマーガレットは安楽椅子にくたりとした。彼女は満腹したのが何となくおかしくなり、独りでくくと笑った。それから考えた。

「三木本が悦んで自分に世話をやく程度はトーストパンにすると六枚までである。七枚目には彼は面倒を感ずる。興味ある心理実験。その試験材料をわたしはおなかに喰べた」

彼女はまたおかしくなった。

「それにしても満腹して少しおなかが切ない。あのパンの前の六枚を喰べずに一番あとの七枚目の半分だけで三木本の愛の分量の実験の効果を挙げる方法はなかったものか」

蒼空に乱れ始めた白雲を眺めながら彼女の頭脳の若さはこんな無理をしきりに考えた。