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ひゃくあしちがい
百足ちがい
山本 周五郎
「キング」大日本雄辯會講談社、1950(昭和25)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,491 字 · 56 页
「まあどうしましょう、まあ、……まちかねさまとかなんとかって、あんな方とですの」
「あなたはご存じなのですか、あの人を」
「知っていたら此処でこんなことをいっていはしません、まっすぐにいって申しあげますわ、でもそれは、……そのお約束はいつなさいましたの、その方いまお幾つなのですか」
「――うう、それはです、約束したのはですね、それは今から、……まる七年まえ」
「まあっ、まる七年もですって」
「私が二十二、その人が、そうです、……私より一つ上で、二十三のときでした」
「そうするとその方、今はちょうど……」
みつ枝嬢の顔がいいようのない柔らかさを帯び、その眼は再び愛らしい色に包まれた。そうしてこんどは温雅な、おちついた表情で、寧ろ哀れむようなまなざしで、彼の説明を聞いたのである。
彼はまえにも記したように、母の勧めもあり、彼自身も発奮するところあって、有力な親族や各方面の権威筋へ、しきりに顔出しをしてまわったとき、松家加久平という老職の家で、その家の二女のおかねに会った。松家は子だくさんで五男四女あったが、そのなかで容色と才を兼備したのは自分ひとりだと、おかね嬢は彼にうちあけた。