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ひゃくあしちがい

百足ちがい

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1950(昭和25)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,491 字 · 56 页

青空文庫

身内のむず痒いような気持で彼はこう呟いた。

簡野は今でも城代家老をしているが、訪ねてゆくと左馬之助はすでに分家して、桶屋町に住んでいるということだった。そこでそっちへいってみたが、そこは名の示すとおり職人町のごみごみした一画で、ひと口に云うと貧民窟のようなところであり、左馬之助の住居はその裏店の、ひん曲ったような長屋の端にあった。……又四郎はちょっと躊躇いを感じたが、思いきって案内を乞うと、妖婆のような女が顔を出して、

「なんの用だい、掛取りなら銭なんかないよ、出なおしといで、ちぇっ、不景気な」

いきなりこう喚いた。又四郎はここで自制心と克己力を活動させ、姓名や身分を告げたうえ、ようやく女の許しを得て家へあがった。

左馬之助は寝ていた。枯木のように痩せ、蒼黒い顔をして、綿のはみ出た薄い蒲団にくるまって、はっはと苦しそうに喘いでいた。彼は又四郎を見ると黄色い歯をみせ、ひどくしゃがれた声でこう云った。

「ああおまえ、……秋成か、来て呉れたんだね、ああ、済まない、……おれの親友、心の底からの友達、おれは泣けるよ、……うれしい、これだよ」

左馬之助は骨だらけのような手で合掌した。