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ひゃくあしちがい

百足ちがい

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1950(昭和25)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,491 字 · 56 页

青空文庫

いったい御用係心得を拝命してから、彼はずっと多忙が続いてきた。役目は側用人の副秘書のようなものだが、どういうわけか側用人の代理のように使われ、藩主との応接も多くのばあい彼が当らされた。そのときの側用人は矢橋隼人といい、たいへんな酒豪で、家でも役所でも酒を側から離さない。いつも飲んで、赭い顔をして、そうして坐って居眠りをしていた。……役所では机の前に坐って姿勢をきちんとして、眼をちゃんとあいたまま眠るのである。しばしば藩主の前でもそうやって眠る。

――これこれの事はどう致したか。

――はあ、御意のとおり。

――ではどれそれの事はどうした。

――まことに仰せのとおり。

こんな問答のやりとりがあって、藩主が気がついて、「隼人を伴れていって寝かしてやれ」というようなことになる例が稀ではなかった。そのためばかりでもないらしいのだが、隼人の事務はしだいに又四郎が任され、ことに帰国してからはいっそうその傾向がつよくなった。定刻の退出は四時となっているが、三日にいちどは定って六時か七時でないと下城ができなかった。

明後日は苅賀と果し合がある、明日は城でどんな用ができるかもわからない、こう思って、彼はその夜でかけていったのである。