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えいきょ

盈虚

中島 敦

「政界往来」1942(昭和17)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,655 字 · 16 页

青空文庫

戚の城に入るのでさえ、喪服をまとい父の死を哭しつつ、土地の民衆の機嫌をとりながらはいらなければならぬ始末であった。事の意外に腹を立てたが仕方が無い。故国に片足突っ込んだ儘、彼は其処に留まって機を待たねばならなかった。それも、最初の予期に反し、凡そ十三年の長きに亘って。

最早(曾ては愛らしかった)己の息子の輒は存在しない。己の当然嗣ぐべき位を奪った・そして執拗に己の入国を拒否する・貪慾な憎むべき・若い衛侯が在るだけである。曾ては自分の目をかけてやった諸大夫連が、誰一人機嫌伺いにさえ来ようとしない。みんな、あの若い傲慢な衛侯と、それを輔ける・しかつめらしい老獪な上卿・孔叔圉(自分の姉の夫に当る爺さんだが)の下で、などという名前は昔からてんで聞いたこともなかったような顔をして楽しげに働いている。

明け暮れ黄河の水ばかり見て過した十年余りの中に、気まぐれで我が儘だった白面の貴公子が、何時か、刻薄で、ひねくれた中年の苦労人に成上っていた。

荒涼たる生活の中で、唯一つの慰めは、息子の公子疾であった。現在の衛侯輒とは異腹の弟だが、※(「萠+りっとう」、第3水準1-91-14)※(「耳+貴」