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もうもくものがたり
盲目物語
谷崎 潤一郎
「中央公論」1931(昭和6)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,341 字 · 148 页
とだいおんによばわりながら、そこはめしいでござりますからなんのえんりょえしゃくもなく人々のあたまをはねのけふみこえて、無二むさんにはしごを駈けおりたのでござります。
しかし逃げたのはわたくしばかりではござりませなんだ。おおぜいのものが火の粉をあびてぞろ/\つながってはしりますので、わたくしもそれといっしょになって、うしろからえい/\押されながらかけ出しましたが、お堀の橋をこえましたとたんに、がら、がら、がらと、おそろしいひゞきがいたしましたのは、うたがいもなくてんしゅの五重がくずれおちるおとでござりました。「あれは天守がおちたんですね」と、だれにきくともなく申しましたら、「そうだ、空に火ばしらが立っている、きっと玉ぐすりに火がついたのだ」と、そばをはしっている人がそう申されるのです。「おくがたやほかのひめぎみたちはどうあそばしたでござりましょう」とたずねますと、「ひめぎみたちはみんな御無事だが、おくがたは惜しいことをしてしまった」と申されるではござりませんか。くわしいわけはあとで知れたのでござりますけれども、その人とならんではしりながらだ