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もうもくものがたり
盲目物語
谷崎 潤一郎
「中央公論」1931(昭和6)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,341 字 · 148 页
にくいと申せば、せきがはらのときに大津でうらぎりをなされました京極さいしょうどのゝ仕打ちなども、はらが立ってなりませなんだ。あのおかたはお初御料人と内祝言をあそばしながら、かみがたぜいの攻めよせるまえに北の庄をお逃げなされて、若狭の武田家へたよっていらっしゃいましたところ、そのたけだどのもほろぼされましてからは三界にすむ家もなく、木の根くさの根にもこゝろをおいてあちこちさまよっていらっしゃいましたのが、よう/\のことでお詑びがかなって大名衆のれつにくわえていたゞけたのは、どなたのおかげだとおぼしめします。もとの武田どのゝおくがたが松の丸どのと申されていらっしゃいましたから、そのおかたのおとりなしもござりましたろうけれども、何よりも淀のおんかたにつながる御えんがあったればこそではござりませぬか。いちどは小谷どのゝお袖にすがられ、つぎにはそのお子さまのなさけにたよられ、二度までもあやういゝのちをたすけておもらいなされながら、あの大雪のなかを落ちていらしった当時のことをおわすれなされ、だいじのせとぎわにむほんをなされて大坂ぜいのあしなみをみだされるとは。