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もうもくものがたり

盲目物語

谷崎 潤一郎

「中央公論」1931(昭和6)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,341 字 · 148 页

青空文庫

先代の亮政公に似かようて、うまれながらに豪傑の気象をそなえていらっしゃる、こういう主君をいたゞけばお家の御運は万々代であろう、まことにあっぱれなお方だと、御家来しゅうがみな備前どのゝ御器量をおしたい申して、てゝごの方へは出仕するものもないようになりましたので、ひさまさ公もよんどころなく家督をびぜんどのへおゆずりになりまして、ごじしんは奥方の井の口殿をおつれになって、竹生島へこもっていらしったこともあるそうでござります。

けれどもこれはわたくしが御奉公にあがりました以前のことでござりまして、当時は父子のおんなかもいくぶんか和ぼくなされ、下野どのもいのくちどのもちくぶ島からおかえりになりまして、お城でくらしていらっしゃいました。長政公は二十五六さいのおとしでござりましたろうか、もうそのときは二度めの奥方をおむかえになっていらっしゃいましたが、そのおくがたと申されますのが、もったいなくも信長公のおん妹君、お市どのでござります。この御えんぐみは信長公が美濃のくにより御上洛のみぎり、いま江州できりょうのすぐれた武将と申せば、歳はわかくてもあさい