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もうもくものがたり

盲目物語

谷崎 潤一郎

「中央公論」1931(昭和6)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,341 字 · 148 页

青空文庫

そうで、そのおかたのことは存じませぬが、お市御料人はまだお輿入れにならぬうちから世にも稀なる美人のきこえの高かったお方でござります。御夫婦なかもいたっておむつまじゅうござりまして、お子たちも年子のようにお生れなされて、もうそのときに、若君、姫君、とりまぜて二三にんはいらっしゃいましたかと存じます。いちばんうえの姫君はお茶々どのと申し上げて、まだいたいけなお児でござりましたが、このお児が後に太閤殿下の御ちょうあいをおうけなされ、かたじけなくも右だいじん秀頼公のおふくろさまとおなりなされた淀のおん方であらせらりょうとは、まことに人のゆくすえはわからぬものでござります。でもお茶々どのはその時分からすぐれてみめかたちがおうつくしく、お顔だち、鼻のかっこう、めつきくちつきなど奥方に瓜二つだと申すことで、それは盲もくのわたくしにもおぼろげながらわかるような気がいたしました。

ほんとうにわたくしふぜいのいやしいものが、なんの冥加であゝ云うとうといお女中がたのおそばちこう仕えますことができましたのやら。はい、はい、左様でござります、まえにちょっと申し上げる