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すもう
相撲
寺田 寅彦
「時事新報」1935(昭和10)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,122 字 · 9 页
しかし後にはそうではなくて先任者が順々に後任者を推薦し選定するようになった。従って自然に人員の個性がただ一色に近づいて来るという傾向が生じたのではないかという気がする。どちらがいいか悪いかは別問題であるが、昔の人選法も考えようによってはかえって合理的であるかもしれない。学風の新鮮を保ち沈滞を防ぐためにはやはりなるべく毛色のちがった人材を集めるほうがかえっていいかもしれないのである。同じことは他のあらゆる集団についても言われるであろう。
それはとにかく、ある時東海道の汽車に乗ったら偶然梅ヶ谷と向かい合いの座席を占めた。からだの割合にかわいい手が目についた。みかんをむいて一袋ずつ口へ運び器用に袋の背筋をかみ破ってはきれいに汁を吸うて残りを捨てていた。すっかり感心して、それ以来みかんの食い方だけはこの梅ヶ谷のまねをすることにきめてしまった。
ラジオの放送を聞きながらこんな取り止めもないことを考えていたのであった。
相撲と自分との交渉は洗いざらい考えてみてもまずあらかたこれだけのものに過ぎない。相撲好きの人から見たら実にあきれ返るであろうと思われるほどに相撲の世界と自分の世界との接触面は狭小なものである。