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しょうせんでんしゃのしゃげきしゅ

省線電車の射撃手

海野 十三

「新青年」博文館、1931(昭和6)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,355 字 · 45 页

青空文庫

「じゃ君は何故、あの車輌に居た乗客を拘束して置かなかったのか」

「……只今になってそう気が付いたもんですから」

「そう思う根拠は、なにかね」

「別に根拠はありませんが、そんな気がするんです」

「それでは仕方がないね。なんだったら、ここに居られるあの時の乗客有志を一時退場ねがった上で、君の考えをのべて貰ってよいが……」

車内に居た乗客の多くは、事件に係合になるのを厭がったものと見え、死人電車が目黒駅のプラットホームに着くと、バラバラ散らばってしまい、このところまで随いてきたのは僅か二人だった。その一人は、左手を少女の血潮で真赤に染めた商人体の四十男で、もう一人は探偵小説家の戸浪三四郎だった。

「ばば馬鹿を言っちゃいかん」と其の商人体の男が、たまり兼ねて口を差入れた。「いま聞いてりゃ、車内の者が射ったということだが君が出て来たのは随分経ってからじゃないか。そんなに後れ走せに出てきて何が判るものか。第一、あたしはあの車内に居たが、ピストルの音をきかなかった。ね、あなたも聞かなかったでしょう」と戸浪三四郎の方を振りかえった。

戸浪は黙って軽く肯いた。

「ほら御覧なせえ、鉄砲弾は窓の外から飛んできたのに違げえねえ。