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びざん

眉山

太宰 治

「小説新潮」1948(昭和23)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,141 字 · 15 页

青空文庫

」

橋田氏は、そのひとらしくも無く、なぜだか、ひどく渋々応じた。

裏通りを選んで歩きながら、僕は、ふいと思い出したみたいな口調でたずねた。

「ミソ踏み眉山は、相変らずですか?」

「いないんです。」

「え?」

「きょう行ってみたら、いないんです。あれは、死にますよ。」

ぎょっとした。

「おかみから、いま聞いて来たんですけどね、」

と橋田氏も、まじめな顔をして、

「あの子は、腎臓結核だったんだそうです。もちろん、おかみにも、また、トシちゃんにも、そんな事とは気づかなかったが、妙にお小用が近いので、おかみがトシちゃんを病院に連れて行って、しらべてもらったらその始末で、しかも、もう両方の腎臓が犯されていて、手術も何もすべて手おくれで、あんまり永い事は無いらしいのですね。それで、おかみは、トシちゃんには何も知らせず、静岡の父親のもとにかえしてやったんだそうです。」

「そうですか。……いい子でしたがね。」

思わず、溜息と共にその言葉が出て、僕は狼狽し、自分で自分の口を覆いたいような心地がした。

「いい子でした。」

と、橋田氏は、落ちついてしみじみ言い、

「いまどき、あんないい気性の子は、めったにありませんですよ。