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しられざるアメリカ
知られざるアメリカ
中谷 宇吉郎
「心」平凡社、1955(昭和30)年3月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 9,617 字 · 20 页
事実は、このあたりには、借家というものがほとんどないので、風来の人間が割り込む機会は、非常に少ないのである。私たちの場合は、全くの偶然で、軍関係の人が、二年間東京駐在になるのと、丁度ぶつかったので、その留守の間、家具付の家を借りることが出来た。
最初に印象をよくしたのは、この家主B夫人の心にくい振舞である。今まで二人暮しだったのであるが、今度私たちは五人だときいて、まず食器類の不足分を買い足し、娘たちが使うべき部屋は、カーテンを桃色にとり換え、台所の戸棚の中には、約一週間分の罐詰類をとり揃えてあった。英語の喋れない奥さんが、初めのうち困るだろうという心遣いである。
アメリカ人は、何でもものごとをきちんと片付ける癖があって、八月から借りるという契約になると、七月三十一日の夕方家をあけ、八月一日の朝借り手が乗り込むという段取になるのが普通である。私たちの場合も、そのとおりであった。そしたら、八月三日頃に、屑籠と今一つ何だかを、知らない店屋から届けて来た。B夫人から「手が廻らないから、あとでこれ等を届けてくれ」といわれたから、という口上付であった。
一番滑稽だったのは、庭の芝刈事件である。