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いしころ

石ころ

山本 周五郎

「富士」大日本雄辯會講談社、1944(昭和19)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,450 字 · 23 页

青空文庫

三

「どうして多田さまでは悪うございましょうか」

「自分で考えてみろ、多田がどのような人間か古府じゅうで知らぬ者はないぞ」

「松尾は存じあげません」かなり強いまなざしで兄を見かえりながら、おちついたしずかな調子で松尾は云った、「たしかにお噂は聞いております、けれどそれはどこまでも人の噂にすぎません、松尾は世評や蔭口よりもその人をお信じ申したいと存じます」

三

「世評は根も葉もなしに弘まるものではない、おまえのは理屈でなければ、ことさらに異をたてようとしているのだ」

「兄上さまは松尾をそんな女とおぼしめしですか」

「もうよいぞ松尾」父親はなだめるように制止した、「おまえにも似合わぬ、兄に口ごたえなどをしてどうしたことだ、万三郎もやめい、この問題についてはおれに意見もあるが、今それを云うことは控える、松尾はもうさがってよいぞ」きっと唇を噛みしめながら松尾はふかく面を垂れた。万三郎は妹がこめかみのあたりを蒼白くしているのに気づいて呆れたように見まもっていた。

それから四五日して、父親がふと松尾の部屋をおとずれた。常になく改まったようすで、娘の眼をじっとみつめながら、「先日あのように申したが、おまえ本当に多田の二男へとつぐ気があるのか」