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いしころ

石ころ

山本 周五郎

「富士」大日本雄辯會講談社、1944(昭和19)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,450 字 · 23 页

青空文庫

「それを云ってごらん」

松尾はいつぞや隠居曲輪であった事をあらまし語った。するとそれまで黙って聴いていた兄の万三郎が、「ばかなことを申したものだ」と腹立たしげに云った、「なんでまた多田の蔭口にかぎって咎めだてなどしたんだ、ほかの者ならとにかく、多田新蔵がどういう男かということはもう世評がきまっている、それをそのように云い庇えば、あらぬ噂がひろまるのはわかりきったことではないか」「はい、本当にかるはずみでございました、これからはきっと慎みます」おとなしく低頭した松尾は、しかしすぐに父の顔をふり仰いで、「父上さま改めてお願いがございます」と云いだした、「松尾もいつかは嫁にまいるのでございましょうか」

あまり突然の問いで父親はちょっと返答に困った。

「それは云うまでもないが、どうして今そんなことを訊ねるのだ」

「もし嫁にまいるのでしたら、松尾は多田新蔵さまへまいりとうございます」

「ばかなことを申すな」万三郎がどなるように遮った、「今あらぬ噂のたっている者とさようなことになれば、噂が事実だったと証拠だてるようなものではないか、まして多田新蔵などとはもってのほかのことだ」