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さとうどろぼう
砂糖泥棒
黒島 伝治
1923(大正12)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,108 字 · 9 页
」
「一寸、待っちょれ!」
杜氏はまた主屋の方へ行った。ところが、今度は、なかなか帰って来なかった。障子の破れから寒い風が砂を吹きこんできた。ひどい西風だった。南の鉄格子の窓に映っている弱い日かげが冬至に近いことを思わせた。彼は、正月の餅米をどうしたものか、と考えた。
「どうも話の都合が悪いんじゃ。」やっと帰ってきた杜氏は気の毒そうに云った。
「はあ。」
「貯金の規約がこういうことになっとるんじゃ。」と、杜氏は主人が保管している謄写版刷りの通帳を与助の前につき出した。その規約によると、誠心誠意主人のために働いた者には、解雇又は退隠の際、或は不時の不幸、特に必要な場合に限り元利金を返還するが、若し不正、不穏の行為其他により解雇する時には、返還せずというような箇条があった。たいてい、どこにでも主人が勝手にそんなことをきめているのだった。与助は、最初から、そういうことは聞いたこともなかった。
彼は、いつまでも困惑しきった顔をして杜氏の前に立っていた。
「どうも気の毒じゃが仕様があるまい。」と杜氏は与助を追いたてるようにした。
「でも、俺ら、初めからそんなこた皆目知らんじゃが、なんとかならんかいのう。