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しゃかいじひょう
社会時評
戸坂 潤
「文藝春秋」1933(昭和8年)年6月~1937(昭和12)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,408 字 · 380 页
仮に一市民である私の首が、何かの非合法的な組織によって覘われているとするなら、私の住むこの社会は決して治安の維持されている社会ではあるまい。治安維持とは、正にこうした事態を未然に防ぐことでなくてはならぬ。単に人間が大勢集まって大きな声を出したり、腕を組み合って元気好く歩いたり、自分の自由な考えを印刷にして配ったりすることは、何も治安を乱るものではない。社会に於ける或る一定の人間の生命が覘われるということが、何より直接な重大な治安の紊乱なのだ。
日本には治安維持法という立派な法律がある。だがそう云っても今、この法律を五・一五事件や血盟団事件に適用しなかったとか、したとかというようなことを問題にしようとするのではない。又「治安維持法」という名を有ったこの法律が、一体本当に治安そのものを維持するための法律であるかないかは、一般にレッテルと中身が一致するかしないかが哲学的に決まってはいないように、決っていないのだし、それに治安維持という法律上の概念が何を指すかは、法律学解釈専門家の合理化的解釈を俟つほかない。日本の政府はそうした合理化的解釈をさせるために、法科大学を、即ち今の帝大法学部を、造ったのである。