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しゃちょうひしょ
社長秘書
佐々木 邦
「面白倶楽部」大日本雄辯會講談社、1926(大正15)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,738 字 · 14 页
ところが或日のこと公爵は我輩の煙草をつけてくれる積りで卓上のマッチを取ったが、明けて見ると空さ。君、何うしたと思う?」
「はゝあ」
「はゝあじゃないよ」
「さあ、何うしましたろう?」
「公爵は一寸不機嫌な顔をして、『君、愚図々々していないで彼方のを借りて来給え』と我輩を極めつけたんだよ」
「成程、それから何うしました?」
「我輩が隣りの卓子へ行ってマッチを持って来ると、公爵は、『よし、御苦労』と言って擦ってくれた。これなら自分でやる方が余っ程手っ取り早い。実に豪い平民主義があったものだと思って、窃かに敬服してしまった」
「ハッハヽヽヽ」
とこゝで皆笑わなくちゃいけない。
「華族さんの平民主義なんて皆こんなものさ。都合の好い時丈け平民で、少し故障があると直ぐに地金を出す。元来が鍍金だからね」
「然うでしょうとも」
「しかし好い人だぜ。今度の拡張の時にはうんと持って貰う」
と社長はゴルフ倶楽部へ商売をしに行くのである。
主として重役と課長連中が斯ういう無駄話のお相手を勤める。平社員は与り知らず、社長帰朝以来重要会議が度々あるようだと思って、コツ/\勉強している。会社では忙しい人ほど報酬が悪い。