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かみのごとくよわし

神の如く弱し

菊池 寛

「中央公論」1920(大正9)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,929 字 · 28 页

青空文庫

それに河野は川越から帰ると、又直ぐ大阪の方へ遊びに行って、其処から又『俺は大に遊んで居るよ。』と云うようなハガキをよこした。それで、大阪から帰る汽車の中で、風邪を引いたにも拘わらず、帝劇の初日に可なりの発熱を感じながら、見に来て居たと云うような噂を、其後誰からともなく、雄吉は聴いて居た。

「あの人は、あゝした賑やかな場所へ来ることが、何よりも好きらしいな。この頃は、自分の家などには、淋しくて居たたまらないらしいのだよ。この間の初日なども、河野君にとっては、別に顔出しをしなければならない訳はないのだが、それでも顔を出さずには居られないんだね。」と、その男は付け足した。

×

こうした心持で居たから、雄吉は雄吉達の友達である鳥井の結婚式があると云う日の午前に、河野から、

『流行性感冒にかゝり、昨夜以来、発熱四十度、今日の鳥井の結婚式には、とても出られない。鳥井によろしく云って呉れ。』

と云う速達のハガキ――それも誰かの代筆らしいのを、受け取った時、友人の急な重態に駭くのと同時に、心の底の何処かで『いゝ気味だ』と、云うような気がするのを、何うしても打ち消すことが出来なかった。