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かみのごとくよわし

神の如く弱し

菊池 寛

「中央公論」1920(大正9)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,929 字 · 28 页

青空文庫

その顔は、河野の半生には、夢にも見られないような清浄さと、けだかさとを備えて居た。雄吉と細木との顔を、上目を使って、ジロリと見た河野は、

「ありがとう!」と、口の裡で微かに云って、何か云い続けようとしたが、咽喉へからんで居る痰の為だろう、苦しそうに咽喉元を、顫わしたまゝ、何も云わなかった。

雄吉も細木も、病気見舞と云ったような、ありふれた御座なりを、友達が瀕死の場合に云うのは、如何にも空々しく見えるので、何も云わないで黙って居た。

が、常にない河野の、神々しいと云ってもいゝような顔を見て居ると、河野の過去一年の凡ての行為が、今度の病気に依って、スッカリ浄化されたように思われて、河野に対して懐いて居た感情のこじれを、悉く忘れはてようとして居た。十年に近い間、いろ/\さま/″\な生活を、一緒にして来た友達に対する、純な感情がしみ/″\と、蘇って来るように思った。

雄吉は、その晩自分の家へ帰る道で、この瀕死の友達のために、出来るだけの事をしてやらねばならないと思った。

河野が、病気になったに就いて、一番困って居ることは、やはり金ではないかと思った。新聞小説を書いて得た収入は、入るに従って散じてしまったようだし、その小説を出版して得る印税は、前借までして使って居たし、その上、河野は最近になってから、急に身の廻りの