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しんけい

神経

織田 作之助

「文明 春季号」1946(昭和21)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,754 字 · 28 页

青空文庫

千日前界隈の料亭の仲居も店の帰りに寄って行く。銭湯の湯気の匂いも漂うて来る。浅草の「ハトヤ」という喫茶店に似て、それよりももっとはなやかで、そしてしみじみした千日前らしい店だった。

殺された娘も憧れのレヴュ女優の素顔を見たさに、「花屋」へ来ていたのであろう。小柄で、ずんぐりと肩がいかり、おむすびのような円い顔をしたその娘は、いつも隅のテーブルに坐って、おずおずした視線をレヴュ女優の方へ送り、サインを求めたり話しかけたりする勇気もないらしかった。女優と同じテーブルに坐ることも遠慮していたということである。そのくせ、女優たちが出て行くまで、腰を上げようとしなかった。

それほどのレヴュ好きの彼女が、死後四日間も楽屋裏の溝の中にはいっていたとは何かの因縁であろう。溝のハメ板の中に屍体があるとは知らず、女優たちは毎日その上を通っていたのである。娘としては本望であったかも知れない。

しかし、事件が新聞に出ると、大阪劇場の女優たちは気味悪がった。「花屋」へ来る女優たちは皆その娘の噂をしていた。いつも一階の前から三筋目の同じ席に来ていたので、いつか顔を見知っていただけに、一層実感が迫るのであろう。