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まつりのよる
祭りの夜
豊島 与志雄
「日本小説」1948(昭和23)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,781 字 · 20 页
「河野さんは、不賛成だったわね。わたしも不賛成よ。」
そうなると、なんだか訳が分らないのだ。――彼女が東京に帰ったがよいかどうか、私には猶更分らない。
「河野さんは、いつか、東京に出るんでしょう。」
「そんなことは、分りませんよ。ここだって東京だって、まあ同じようなものだし……。」
「そう同じね。」
彼女は煙草をふかしかけたが、ふとそれをやめて、眼に深々と陰を宿した。表面は薄いかげりで、底にゆくほど濃くなり、そこにはもう外界の何も映らず、ただ内にあるものだけが籠ってるのだ。それが訴えるように、私の方へにじり寄ってくる。と同時に、彼女の顔の小鼻の両脇にある溝が、片方だけ深く刻まれてゆく。泣いちゃいや、と私は心の中で叫び、つぎには、東京に行っちゃいや、なに行っちまえ、と一緒に呟いた。――そのとき、私自身、不覚にも眼に涙をためていたのだ。すっかり酔っていたのであろうか。
彼女の手が私の手をしかと捉えた。私はハンカチで眼の涙を拭き、杯に酒を受け、そして微笑んだ。
「ばかね、泣いたりして。」
「あなただって泣いたよ。」
「わたし、泣かないわよ。ただ酔っただけ。」
「僕も酔っただけだ。