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まつりのよる

祭りの夜

豊島 与志雄

「日本小説」1948(昭和23)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,781 字 · 20 页

青空文庫

彼はごく稀に、ひそやかにやって来て、二三泊ほどしていくこともあるらしく、また、客を連れて来て深夜まで飲食し談合することもあるらしかった。彼も、また政代も、この土地では、なるべく人目につかないようにしているようだ。八杉は、軍部の嘗てのストック物資の不正取引に、なにか関係があるらしいと、沖本が私に囁たことがある。

それでも、政代は人目につきやすかった。娘の三味線の手ほどきを頼まれて、数軒の家へ出稽古に行っていた。祭礼の演芸会に出てくれとも頼まれたが、それはきっぱり断わった。

「お祭りの夜は、家でお酒でも飲んでるのが、いちばん楽しいわね。こんなこと、わたし初めて知った。」

「酔っぱらって、山車にのっかって踊るのは、どうですか。」

「そんなのは、若いうちのことよ。」

彼女の眼がともすると、深い陰を湛えそうになるのへ、私は気がひかれがちだった。

樽神輿がまたかつぎ出されてるらしく、波のような人声がきこえてきた。それが消えると、遠い太鼓の音が続いたり絶えたりする。風が少し出てきたらしい。

お留さんが帰ってきて、甘栗の袋をあけながら言う。

「なんだか、降りそうですよ。