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わたしのあったゴーリキイ
私の会ったゴーリキイ
宮本 百合子
「文学案内」1936(昭和11)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,457 字 · 11 页
私は愚痴をいうのがきらいだった」
という意味のことをいっている。当時にあってゴーリキイが周囲の重圧と闘い、内心の火を守り、自分を腐らせないためには、彼の旺んな生活力から生じるロマンティシズムが必要であった。若しゴーリキイが自分の心の中におさえることの出来ない情熱を、全人類的なよりよい生活への希望、その達成のために努力する意志と結合させなかったならば、作家としてゴーリキイは単なる一箇のロマンティストであり、或いは色彩豊富ではあるが、われわれを教える何ものをも持たない一人の大言壮語する饒舌な作家として、やがて忘れられただけであったろう。
ゴーリキイをここから救ったのは彼の溢れるような文学的才能を常に正しい道にひきとめ、それを押しすすめた独特の正直さ、現実をあるがままに勇気をもって直視する能力であった。その力によってゴーリキイはながい歴史の波瀾の間に自分自身の結合せらるべき意志はどういうところにあるかということを理解した。
この力によってゴーリキイは若い時代に彼の血を清く保つ力となっていた自身のロマンティシズムを、歴史のもっとも積極的な現実の可能性をはっきり見透し、そのために献身的な努力を惜しまないという点で、翼を持たぬ日常主義者には或いはロマンティックであるといわれるかも知れぬ一つの力に融合させたのであった。