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わたしのおぼえがき
私の覚え書
宮本 百合子
「女性」1923(大正12)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,746 字 · 18 页
を繰返す。揺り返しの間を見、私は、いそいで階子を降りた。居間のところへ来て見ると、丁度昼飯に集っていた家内じゅうの者が、皆、渋をふき込んだ廊下に出て立っている。顔を見合わせても口を利くものはない。全身の注意を集注した様子で、凝っと揺れの鎮るのを待っている。階下に来て見て、始めて私は四辺に異様な響が満ちているのに気がついた。樹木の多いせいか、大きなササラでもすり合わせるような、さっさっさっさっと云う無気味な戦ぎが、津波のように遠くの方から寄せて来ると一緒に、ミシミシミシ柱を鳴して揺れて来る。
廊下に立ったまま、それでも大分落付いて私は、天井や壁を見廻した。床の間などには砂壁が少し落ちたらしいが、損所はない。その中、不図、私の目は、机の上にある良人の懐中時計の上に落ちた。蓋なしのその時計は、明るい正午の光線で金色の縁を輝やかせながら、きっちり十二時三分過ぎを示している。真白い面に鮮やかな黒字で書かれた数字や、短針長針が、狭い角度で互に開いていた形が、奇妙にはっきり印象に遺った。驚いて、一寸ぼんやりした揚句なので却って時計の鮮明な文字が、特殊な感銘を与えたのだろう。