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わたしのおぼえがき

私の覚え書

宮本 百合子

「女性」1923(大正12)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,746 字 · 18 页

青空文庫

九月一日、私は福井県の良人の郷里にいた。朝は、よく晴れた、むし暑い天気であった。九時頃から例によって二階と階下とに別れ、一区切り仕事をし、やや疲れを感じたので、ぼんやり窓から外の風景を眺めていると、いきなり家中が、ゆさゆさと大きく一二度揺れた。おや地震か、と思う間もなく、震動は急に力を増し、地面の下から衝きあげてはぐいぐい揺ぶるように、建物を軋ませて募って来る。

これは大きい、と思うと私は反射的に机の前から立上った。そして、皆のいる階下に行こうとし、階子口まで来はしたが、揺れが劇しいので、到底足を下せたものではない。田舎の階子段は東京のと違い、ただ踏板をかけてあるばかりなので、此処に下そうとするとグラグラと揺れ、後の隙間から滑り落ちそうで、どうにも思い切って降りられない。私は、其儘其処に立ち竦んで仕舞った。

階下では、良人が「大丈夫! 大丈夫!」と呼びながら、廊下を此方に来る足音がする。私共は、階子の上と下とで、驚いた顔を見合わせた。が、まだ揺れはひどいので、彼が昇って来る訳にもゆかず、自分が降るわけにも行かない。ゆさゆさと来る毎に私は、恐ろしさを堪えて手を握りしめ、彼は、後の庭から空を見るようにしては、「大丈夫、大丈夫」