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わたしのおぼえがき

私の覚え書

宮本 百合子

「女性」1923(大正12)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,746 字 · 18 页

青空文庫

それにつれて、号外の全部に対し、半信半疑な心持になった。全市の交通、通信機関が途絶してしまった以上、内部の正確な報知を、容易に得られない訳だ。〔四字伏字〕行方不明〔四字伏字〕、〔六字伏字〕と云う諸項が、特に疑いを生じさせた。丁度政界が動揺していた最中なので、余程誇大されているのではあるまいかとは、誰でも思うことだ。私は、

「少し大袈裟ではないこと? 何だか、何処まで本当にして好いかわからないようだけれども」

と云った。それは皆同意見であった。少し号外の調子がセンセーショナルすぎることを感じたのであった。然し、どっち道、全市の電燈、瓦斯、水道が止ったと云う丈でも一大事である。真暗な東京を考えるだけで、ふだんの東京を知っているものは心は怯える。

人々は、口々に、「此方に来ていてよかった。運がよかった。まあ落付くまでいるがよい」と云われる。女のひとなどは、おろおろして、私の手を執る。けれども、私はまるであべこべの心持がした。それだけの恐ろしい目に会わなかったことを実に仕合わせに有難くは思うが、万事が落付くまで、生れた東京の苦しみを余処にのんべんだらりとしてはいたくない。