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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 页

青空文庫

果たしてと、わが眼を誇りたい。

彼は、鵺だと思う。――志を朝廷によせ、若公卿のあいだに密々の交友をもつかと思えば、この鎌倉にあっては、執権お気に入り第一の御用人だ。まさに神変の鵺といっていい。

かつて、高氏のうけた蟄居の難にしろ、思うに、鵺は無関係ではない。――土岐左近と共に、高氏の遊歴の帰途を擁して、高氏を味方にひき入れんとこころみて失敗した一件が、道誉にとっては、後日、深刻な悔いとなったに違いなかろう。

もし、高氏に吹聴されたら。

それを恐れて、道誉が先手を打ったものと、近頃では、やっと真相も読まれて来た。そして、その惧れも消えたので、近来はまたそろそろ、高氏へ媚態を呈して来ているものと、右馬介はにらんでいる。

「その佐々木道誉が?」

あれこれ、思い合せると、主人思いな右馬介の心には、鵺の住む一朶の黒雲のなかに、主君の運命も、藤夜叉が生んだ不知哉丸の未来も、すべて、呪われているものに見えた。

「ここは一番、大覚悟のときか」

彼は、生涯の思案を一ときに凝らした。

右馬介の苦悩にひきかえ、藤夜叉の縋りは、

「どうぞ、小殿に会わせて」

とのみ、ただただ、単純だった。