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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 页

青空文庫

「修羅の巷に迷うても」

「ええ、地獄へでも」

「良人が悪鬼羅刹と見えても」

「はい。羅刹の妻となりまする」

「登子っ」

彼は寄って、いきなりその花の顔を、抱きしめた。

「もう、終生離さぬ」

この乱暴に似た力の方が、はるかに彼女を驚かせたにちがいない。

姿態をくねらせて、彼女は救いを乞うような火の息を喘いだ。

あわてて高氏は灯を吹き消した。なお、黒髪に埋めてやまぬ羞恥と硬い四肢とをもてあまして、閨のうちへ抱え入れた。白い顔は、もう息も絶え絶えのように、わななきを歯にくいしめて、耐えようとする観念を、その睫毛が言っている。

高氏のあたまを、ふと、牧の小娘や、藤夜叉との梅の香の闇がかすめた。しかし彼の本質にある性情だろうか。彼の乱暴な愛情の表現は、みずから制御を加えることもできなかった。

――朝。登子は鏡にむかった。

鏡は、女になった女を映して、しげしげと今朝の彼女に見入らせている。

髪一トすじの変化もなく、しかも一夜に変った自分を鏡の中に見て、彼女はまだ離脱しきれない処女の日の感傷を心から押しのけて、静かに“女の誕生”を心のうちで遂げていた。

「いまは身も心も、足利登子。