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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 页

青空文庫

「やあ、田楽の者ども。またもごきげんを損わぬうち、みなこれへ寄ッて来い。皆で舞え舞え、歌え歌え」

すると、生ける心地もなく隠れていた田楽役者たちも、そこかしこから「……おおうい」と、一せいに応えて躍り立ち、華雲殿の屋の棟も動くかのような妖しい諸声をここに揺り起した。

妖霊星 えうれいぼし

天王寺の

えうれいぼし

これは、ひとり高氏だけの耳に、こう聞えていたのである。弱法師と歌っている合唱が、妖霊星妖霊星と。

しかもこの晩には、よくよく妖しいことが重なったとみえ、折ふし、執権御所から遠からぬ雪ノ下辺には、屋敷町の火事があった。

風はないが、火の粉のキラめきや黒けむりが、ここの大屋根の上をも、さかんに越えてゆく。

五町四方の出火のばあいは、武者所の常備兵が、ただちに動いて、執権御所の寝殿、四門、辻などを固めるのが掟であった。当然その夜も、甲冑の影や馬のいななきも入り交じッて、四門の内外には、あらしのような闇騒が起っていた。――しかし、ここではまったく、それもよそに。

……えうれいぼし

えうれいぼし

天王寺の妖霊星

怪異な舞と歌ごえが、なお一だんと昂まっている。しかもその狂おしい魔宴の高潮を飾るかのように、大廂には火の雨すらハラハラとこぼれ降ッていた。