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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
吉川英治『私本太平記(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 页
だが騒動まぎれに、高氏逃げたり、といわれては心外だし、言い開きも立たぬゆえ、寝ながらの宿直と腹をきめていたのだ。――おぬしが見えたのは幸いよ。登子をつれて、ひと足先に帰ってくれい」
「いや、ご一しょに退がりましょう。辻々はまだ、あの火事騒ぎ。直義にも、おきれいな嫂の保証はできません。かたがた、兄上にしても、ただここにおいでのみでは、無意味ではございませぬか」
「それも、そうか。では二人とも、小町御門の袖の外にて、わしの行くのを待っておれ」
高氏は、先にどこへか出て行った。また、その足どりは蹌踉として見える。しかし高時の“常ノ御所”へ近づくと、しっかりしていた。
一室に入って、高時の侍者に会い、また典医の口から、高時の容態も聞きとった。さらに、事のついでのように、佐々木道誉の姿を求めたが「――道誉どのは、如何なされしか、どこにもお見えなされませぬ」との、侍たちの返辞に、
「……さらば、よろしく」
と、言いのこして、退出を告げ、やがて、二人を待たせておいた小町御門の外へ退がった。
「直義、乗物は?」
約をたがえず、二人はいたが、見れば、登子の輿も自分の乗馬も見えぬので、高氏が訊ねたのだ。