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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 页

青空文庫

起き出して、彼らが酔って帰るのを、待ちうけていた。

――やがてのこと。それらしき人影が、山門からもどって来た。だが二人は、そのまま寝屋の房へは近づいても来ず、彼方の荼吉尼天堂の縁へ、酔った体を投げ出しあった。そして何やら、首と首とを寄せあっている。

近くの物蔭で、御厨ノ伝次が聞くとも知らず、二人は言い争いをやっていた。その争いも、ひそひそ声から次第に、

「なに。道義にそむくと。そんな形もないものにとらわれて一生の運を逃がす馬鹿があるか。主家が何だ」

言いつのッているのは藤五で、一方の声は八郎太だった。

「八郎太。どうしても、おれの相談には乗れねえのか」

まき舌である。

八郎太は醒め、彼は生酔いだ。

その生酔いの今切藤五が、執こく、一方の同僚を、説きつけようとするものらしい。

「ええおい。そう迷っているうちには、やがて都へ着いてしまうぞ。目をつぶって、ここで一生の運をつかむか。それとも、盲法師と尼前を無事に都へとどけて、御苦労ともいわれず、再び主家へ戻って、一生武家郎党の端で終るか。どっちを択るかだ、ここの思案は」

「だって、きさま、あれは主筋のお方だぞ。