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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 页

青空文庫

かなり離れていたはずの、供の今切藤五、羽鳥八郎太の二人の足音が、すぐ踵に近づいて来たからだった。

その後ろからはまた、御厨ノ伝次が、黙々として従いて来る。――今切、羽鳥の二人へそそぐ彼の眼が、ゆうべから針のごとき警戒心と、軽蔑にみちていたのはいうまでもない。

すると、この奇異な一行五人づれの遅い足どりを、さっきから、待つかのように、本野原の中ほどで、頻りに振向いていた女性がある。

道ばたの朽木柳に腰をかけ、一行が近づいて来ると、俄に、脱いでいた市女笠をかぶッて、その顔容を隠していた。

近郷の武家の女か。

それにしては、どこやら垢ぬけし過ぎた艶姿だ。旅粧いもきりっと身についていて、裾みじかに裳をからげ、市女笠の紅紐が白い顎によく似合っている。

「…………」

まだ朽木の幹に腰かけたままでいたが、いま通って行った草心尼母子と供の三人を、見ぬフリしつつ、笠の蔭から見送っていた。

それからほど経て、彼女もまた、路傍から腰を上げた。けれど、

「よそうかしら」

何かに迷う風でもあり。「……いやいや、そうでない」と、思い直す風でもあった。

先の草心尼たちの影とは、もうかなりな距離。