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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(五)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 页

青空文庫

「身勝手な退身の願いなどは決してならん。ただの女御更衣とはちがう。かりそめにもそなたは皇太子の御母。その皇太子を他の親王に代えるなどの儀は、つゆほども、考えてはいないことだ。……とまれ何事があろうと、准后は准后としておれ。命じたぞ。よろしいか」

きびしい綸言であった。いや、あらあらしい男性的なご態度で、いつもの“姉さん女房”廉子にたいするものではなかった。

その夜は。

後醍醐も、后町のどの妃の局へもお通いは見えなかった。ひとり夜ノ御殿に悶々と御寝もやすからぬご様子だった。おそらくは、父として、帝王として、ここの紛糾をどうしたものかに、夜すがらな、おなやみだったものに相違なかろう。

護良。征夷大将軍ノ宮。

ご自身の第三皇子だ。――この出来すぎているほどな子を、父後醍醐も、はじめは、帝血にめずらしい俊豪な獅子児と、ほこりにしておられたのだが、近ごろはまったく、手におえぬ者と、一再ならず、持て余していたところなのである。護良、ああ護良と。

初雪見参

「おーいっ。彦七」

宮は、手綱をしぼッて、その半身を、鞍の上から後ろへ反らせて、

「どこへ行く。どこへ行く」

と、はるかな一群の供の騎馬を呼んでいた。