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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

13 黒白帖

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,638 字 · 233 页

青空文庫

師直の一札は、執拗に、自分を陥れた一類五人の引渡しをかさねて求めたものだった。もし、おきき入れなくば、ぜひもない儀と、暗に実力に出る旨もほのめかしている。

すなわち、その五人とは。

上杉伊豆守重能、畠山直宗、大休寺の僧妙吉。それに直義の奉行人斎藤利康、同修理之進のふたりの名をも加えていた。

塀を境とした君臣両勢の対峙のあらしは、遠い所のもののようでしかない。そこは真空のような一殿の室だった。

一通の奉書の状が、あらしの眼みたいにおいてある。

「…………」

決裂か、要求をいれるか、交渉再三のあげくに、たったいま師直方から最後のものと提示してきた切札のごとき要求だった。――それを中においての、尊氏と直義とは、はてしない、無言の膝をじっと硬めあっていた。野中の二箇の石かのように冷たいのである。どんな他人といってもこんな隔絶感は持てまいほどな深い割れ目がふたりのあいだに穴をあけていた。しかも哀しい骨肉の本能はかえって沸りに沸って体を離れた見えぬ虚空で兄と弟のつかみあいをどうしようもなくしている長い沈黙なのだった。

が、その沈黙にも疲れてきたに違いない。やがて、静かに、