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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

13 黒白帖

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,638 字 · 233 页

青空文庫

直義のとった行動はじつに思いきっている。

いうならば足利系総氏族の大分裂を自身からしたものにほかならない。しかし彼によるこの大爆発の降灰を浴びても、その外輪や裾野をなしている一族諸武士は、

「やったか、ついに!」

と、さまで震駭の色でもなく、後の南朝への投降も、半ば必然に来た休火山の噴煙みたいに見ていたのはふしぎといってよい現象だった。

それに反して、さっそく、活気のある朝議となっていたのは賀名生の山村の朝廷である。暗澹たる前途に一道の光明をここに見たのだ。

しかし、飢えの手が物にとびつくようではない。北畠親房は充分こんどのことには疑いをもっている。――彼は疑惑と利用の両面を胸に用意して、ひそかに某所で直義と会った。その結果、直義の降は容れられた。

直義は、帰降の誓文をさしだした。それには北朝の年号を用いず、南朝年号の「正平五年十二月」と書いた。そしてただちに挙兵にかかった。いまは師直のみが相手ではない。兄と戦うのだ。兄と戦うには名分がなくてはならない。「――南北両朝の対立を解消して、正しい一つの朝廷に帰一する」。それを名分にとったのである。

ときに、尊氏はといえば。