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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

13 黒白帖

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,638 字 · 233 页

青空文庫

一日も早くその義詮を次代の将軍にすえて、幕府統一を固めておかねばとするあせりがつのッた。それに自分もいつか年は五十をまたいでいる。

「顕氏」

武佐寺での尊氏は、油幕を引いた大庭に床几をおき、朝も昼糧も、粳に味噌をつけたような物を床几のままで噛っていた。

「叡山はまだ、うんといわないのか」

「はっ。再度のお使いも、今もって戻らず、何の早馬もないところを見ますと」

「よい条件を申しやってあるものをな。なぜだろう、即答を渋るのは」

「いまだに、天龍寺造営のいきさつを、恨みにふくんでいるのではありますまいか」

「ばかな」

と、癇気をたてて。

「では、直冬へつく気か」

「いや、佐殿方への加担も拒んでいるということではありまする」

しばらくすると、彼はまた、畠山国清をよんで、

「きのう今日の軍兵の着到を見せい」

と、簿を取寄せていた。

管領の基氏が派してよこした東国勢やら、美濃の土岐、信濃の小笠原など、諸国の兵は毎日のようにここへ着いていた。その数は武佐寺の内外にあふれて、すでに万をはるかにこえている。

「よし。叡山の返答など、気永に待っているにおよばん。明日は東坂本へさして進め。