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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
13 黒白帖
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,638 字 · 233 页
後醍醐のきみが武家に取って代る御謀反気を持たれなかったら、かような乱世にはならなかったか。そんな単純には言い解けませぬし」
問「では誰が、いや何が、こんな凄まじい世にしたのでしょうか」
答「下手人はないのですよ」
衆声「ほう? ないとは」
答「しいてあるといえばあるともいえましょう。一部の陰謀や火ツケで出来るものではありません。全土に素地ができているから始まったことなのです。源平、鎌倉、北条と長い世々を経てここまで来たこの国の政治、経済、宗教、地方の事情、庶民の生業、武家のありかた、朝廷のお考え――までをふくんだ歴史の行きづまりというものが、どうしてもいちど火を噴いて、社会の容をあらためなければ、二ッ進もさっちも動きがとれない、そして次の新しい世代も迎えることができない、いわば国の進歩に伴う苦悶が何よりな因かと思われまする」
問「では、何十万の死者も、その犠牲というわけですか」
答「北条殿、新田殿、足利殿、そして後醍醐のきみも、正成どのも、犠牲であるに変わりはない」
問「ほかに工夫はないものでしょうか。そんな殺し合いをしないでもすむ――」
答「それが智恵です。