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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
13 黒白帖
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,638 字 · 233 页
としては、余りにも数奇に過ぎる生涯を必然にしてしまわれたものであった。
しかも、夢はやぶれて、業は半ばというよりは、時も暗澹なうちに、世を終わられたことである。御無念はいうまでもなかったろう。
崩御の、つい前日にさえ。
西国にある皇子のおひとり懐良親王に、遺勅を送って――
「わがなきのちも、朝敵掃滅のはかりをおこたるな」
と、激励しておられたほどであった。
かえりみれば、たくさんな皇子たちも、戦陣に亡わせ、残る幾人かの皇子すら、北や東や西と、ちりぢりに所をへだてて、八月十六日の深夜丑ノ刻、おん息をひきとるときの御枕べにいたのは、悲哭する廷臣をべつとすれば、わずかに、御生涯の艱苦をともにして来た准后阿野廉子と、第七皇子の義良十三歳のおふたりだけであったのだ。
その御臨終のさまを。
主上 苦しげなる御息を
吐かせ給ひて――
と「太平記」は、こう御記しているのである。
「異国の帝王には、この世の宝玉や愛妃への執念を墳墓にまで随えていったような人もあるが、じぶんは今、臨命にさいして、妻子への未練も、王位や珍宝にたいする妄念も、何ら持ってはいない。……ただ生々世々、心のこりなのは、ついに朝敵を亡ぼし終らず、四海の泰平を、この目で見なかったことである」