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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

13 黒白帖

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,638 字 · 233 页

青空文庫

二条家でも泣き寝入りのほかはない。

彼のこんな行状はすぐ尊氏にも聞えていたろう。しかし師直は、自己の実務的才腕と誠意にかけて、主君の信頼には、ぜったい自信をもっていた。だから彼の好色行状もすこぶる派手で、それがその道だけの達人みたいに喧伝された理由であろう。

彼と、塩冶判官高貞の妻との艶話なども、ひどく市井に喧伝されたものである。

高貞の妻室が、当時、著名な美人であったことが、師直の好色癖にむすびつけられ、好箇な好色談となっていったものらしい。

早田ノ宮の妹で、弘徽殿の西台といわれた佳人がある。

後醍醐天皇が、隠岐から凱旋されたさいは、名和長年をはじめ、勲功の臣には、かつてそれぞれ恩賞が下されたが、出雲の守護、塩冶高貞へは、宮中のその一美人を賜わった。

これが高貞の妻である。

いつ見たのか。師直はこの人妻に懸想して、さまざま言い寄ってみたが、いつも柳に風とうけ流され、煩悩悶々と、やるかたもない想いでいた。或る折などは、塩冶の館の客となって、西台が湯殿にあるのを知り、覗き見までやったという。

また、彼女の歓心をえんためには、兼好法師に恋文の代筆をさせて、彼女の袂へ忍ばすなどの腐心までこころみたが、ついには彼女の良人高貞を亡き者とするに如かずと考え、将軍家に讒して、討手を向け、