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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

13 黒白帖

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,638 字 · 233 页

青空文庫

毒の爛漫

師直の肉親、師泰などというのもいる。

毒の爛漫

強いか強くないかだけが長いこと人間を評価してきた。乱世の出世番付はそれを今日に結果して来ている。だから新幕府下の権勢家でも、かいもく無学なのが少なくなかった。山名時氏などは目に一丁字もなかったという。そうした中では、師直は、何しろ群を抜いていた。

彼は、将軍家執事職として恥かしくないほどな学識をもっている。公卿との交渉にもひけめはとらない。その風貌にも似ず筆蹟は美しい。歌もよく詠む。彼の作歌は「風雅和歌集」にまで選ばれている。

だが、弟の高ノ師泰となると、だいぶ品がちがう。

これも当世流行の婆娑羅型の人物のひとりではあるが、師直の婆娑羅、道誉の婆娑羅、個性さまざまな婆娑羅ぶりの中で、師泰ときては、ひどく単純な――いわば伝統無視の露骨な快楽主義者といったような男だった。

一、二の例でいえば。

前ノ宰相菅原在登の山荘が東山の好位置にあった。

「下屋敷にいい。あの家を接収しろ」

まもなく、一片の通達が菅原家へとどいたのみで、はや土木の工が始められていた。

在登は大いに怨んだ。園内には道真いらいの菅原家代々の墓所がある。