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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

13 黒白帖

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,638 字 · 233 页

青空文庫

「すぐ兵をやって、土岐、二階堂の両名を彼らの家から搦め捕って来い」

となった。

ところが、二階堂行春はやしきにいたが、土岐の弾正頼遠のほうは、はや居ない。危険を感じて、自国の美濃へ逃げ帰ってしまったのである。のみならず国元では兵を挙げんとする風聞さえあったので、直義は、頼遠の兄頼清へ御教書を送って「一族の運命を過るな」と、それに達し、

「頼遠を出せ。頼遠一人だに出京して来れば相すむものを」

と、諭告した。

おそらく一族兄弟に諭されたあげくであろう。十一月の末、頼遠は軍兵をつれて堂々と上京してきた。名だたる三婆娑羅の一人といわれるだけあってさすが太々しく、一戦も辞せずのつらがまえであり、幕府も大事をとってか、この日には何らの沙汰もしていない。しかし充分不気味な空気は頼遠に感知される。そこで、頼遠ものがれ難きを知ったか。あくる朝、とつぜん、嵯峨の夢窓国師のもとへ出かけて行った。詫びのあつかいを頼みに行ったものである。

と、まもなく。

幕兵千余騎が殺到して寺坊をとりかこんだ。――鼓噪、終日ニ及ブ(中院記)――とあるから頼遠はなかなか出て来なかったものだろう。