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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

13 黒白帖

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,638 字 · 233 页

青空文庫

ところが。

いよいよ道誉が配流されて行く日を見れば、その行装など、日ごろの物見遊山とも変るところはなく、従者三百騎は、例の伊達すがたに猿皮の靫をかけたり、鶯籠やら酒肴の重箱をたずさえたりして、宿々のやどに着けば、ところの傾城を総揚げにして騒ぐなど、人もなげな大行楽で立って行った。

こうして、ほんとの配流地、出羽へは行かずじまいで、しばらくは上総に遊んでいたらしい。そして一両年のうちにまた、いつのまにか都へ帰って居、依然、足利将軍の下に重きをなしていた道誉であった。――このような魔術的手腕のみは、ほとほと自分にも真似ができぬものと、師直も彼には一目おいていた。

それのみでない。師直は自分の不人望を知っている。

だが一般に、道誉は自分ほどには不評でない。むしろ一部には好感さえもたれている。配流から帰った後も、以前にまさる華奢風流を振舞っているが、

「底知れぬ悪党よ」

とは、誰もいわないのだ。また、彼の豪勢な生活の財源がどこから出てくるのかなども怪しんでみる者はない。

師直は、ひそかに思う。

「――天龍寺船の交易物のさばきは彼の手にまかされている。これは大きい。